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知恵の輪

2010.10.14 23:42|短編小説
内容:ヤンデレ妹


 窓から差し込む夕陽を、ベッドに寝転がりながらぼんやりと眺めていたとき、午後6時を知らせる時計の音が部屋に響きわたった。

(もうこんな時間か……)

体を起こし、時計を見ると、確かに短針は6を指している。
学校から帰って来たあと、何をするともなく自室でごろごろとしていると、気付けば時間がそれなりに経過していた。
宿題をするなり、ゲームをやるなり、もしくは本を読んだりと、時間を潰す方法はそれなりに存在する。
だが、どうにもやる気が起きなかった。

(テレビでも見るか)

結局、自室で出来る事の選択肢を放棄した俺は、テレビがある一階のリビングへと行くことにした。



「何やってんだ?」

リビングへ行くと、妹の沙織がソファーに座り、何やら金属の輪を手でいじくっていた。
沙織は作業を一旦止めると、こちらに向き直って答えた。

「知恵の輪よ、兄さん」

そう言われて沙織の手元に目をやれば、確かにそれは丸い輪に棒がついた、シンプルな知恵の輪だった。

「またレトロなもん持ってんな。どうしたんだ、それ?」
「学校の友達が持ってきてたのだけど、結局誰も抜くことが出来なかったから、私が借りてきたの」
「で、今はお前が挑戦中と?」
「そうよ」

問いに答えると、沙織はまた知恵の輪を解く作業に戻る。
特にこちらを気にすることなく、集中してやっているようだった。
しばらく沙織が知恵の輪をかちゃかちゃといじくり回すのを眺めていたが、どうやら沙織も学校の友達と同じく、苦戦しているらしい。
10分経っても、輪が抜けることはなかった。

「……そういえば、知恵の輪について、こんな話を聞いたことがある」
「何?」

沙織は、手を止めずに聞き返す。俺は昔誰からか聞いた、知恵の輪についての話を始めた。

「知恵の輪を抜こうとしているときに、心に悩みやしがらみとか、そんなもやもやしたものを抱えていると、いつまでも輪を抜くことは出来ないらしい。だけど、それらのものを一切払って、もう一回チャレンジしてみると、今度は驚くほどあっさり抜けてしまうんだそうだ」

沙織は神妙な顔をしながら、俺の話を聞いていた。

「なるほど、私がこれだけやって抜けなかったのも、全ては今抱えている悩みが原因というわけね」
「なんだ、本当に悩みでもあるのか?」

こちらとしては、軽く振った話だっただけに、まさか本当に悩みなんて持っているとは思っていなかった。

「あるわよ、私にだって」

 沙織はそう言うと、何故かこちらを見つめてくる。

(……もしかして、悩みの原因って俺の事か?)

 何かしてしまったかと、最近のことについて思いだしていると、沙織が先に口を開いた。

「でも、そうね。これを機に、この悩みもすっぱりと解決した方がいいのかもしれないわ」

 沙織はそう言って、口の端を釣り上げて微笑んだ。
 その瞬間、まさに“ぞくり”という擬音が似合うかのような悪寒が背筋に走った。

「さ、沙織?」
「どうしたの、兄さん?」

 沙織の笑みは、酷く妖艶で、背筋が凍ってしまうのではないかと思えるほど、不気味なものだった。
 沙織の視線によって、この場に縫い付けられてしまったような錯覚さえ覚える。

「…………」
「…………」

 和やかとまでは言わずとも、先程までそれなりに軽いものだった雰囲気が、一気に崩れ去ってしまった。
 酷く居ずらい。
 それから、また沙織は知恵の輪をかちゃかちゃといじり始めたが、5分程経ったところで、諦めて放りだした。

「ふぅ、何だか頭が痛くなってきた」
「……知恵熱か、知恵の輪だけに」
「兄さん、全然面白くないわ」

 心底つまらなそうに俺の発言をそう切り捨てると、沙織は自分の部屋へと戻って行った。
 残ったのは、気分が悪くなるような嫌な静寂。

「何だったんだ、あいつ……」

 沙織の不可解な様子に、一抹の不安を抱きつつも、俺はそんな気分を払拭するため、テレビのリモコンに手をつけた。


 そして、それから三日経ったある日の夕方の事だった。
 俺は、沙織から「好きだ」という、愛の告白を受けた。



「兄さん、起きてください。兄さん」
「う……ん……?」

 誰かの声とともに、体を揺すられ、俺は目を覚ました。寝ぼけ眼で周りを見回せば、まだ部屋は薄暗い。
 今が、深夜であるのは間違いないようだ。そして、声のした方を見遣ると、そこにはベッドの傍に立つ沙織の姿があった。

「お前、こんな時間にどうしたんだよ……」
「どうしたんだよって、昨日の返事、まだ私は聞いていないのだけど」
「…………」

 昨日の返事。
 それは恐らく、昨日の夕方に俺が沙織から受けた告白への、返事のことを言っているのだろう。
 だが、それについての自分の心は既に決まっていた。

「昨日も言っただろ、俺はお前と恋人同士になるつもりはないって。家族として、お前のことは大切に思っているさ。けど、だからと言ってお前を恋人として見る事は、俺には出来ない」

 告白を受けたとき、始めは何の冗談かと思った。
 だが、沙織がこの手の冗談を言ってきた事なんて今までなかったし、その表情は真剣そのものだった。
 だから、俺も真面目に言ってやった。お前とは付き合えない、と。
 当たり前だ。自分と沙織は男と女である前に、兄と妹として生まれてきたのだ。
 結ばれることがあってはならない。

「……そう。私の事は、大切に思ってくれているのね」
「ああ」

 俺の返事を聞くと、沙織は後ろ手に隠し持っていたものを、胸の前へ掲げた。
 それは……包丁。

「さ、沙織?!」

 俺はあわてて沙織の手にある包丁を取り上げようと動き出した。
 しかし――

「うわっ?!」

 後ろから引っ張られているかの如く、ベッドから出る事が出来なかった。
 寝起きの為、今まで気付いていなかったが、右手に目を向けると手錠がかけてあり、更にその手錠に縄が結びつけてあった。
 縄を辿れば、それは開け放たれた窓の外の格子に結びつけてある。
 縄は非常にしっかりと結びつけてあり、かつ、格子と手錠を結ぶ縄の長さは短く、左手を伸ばしても、数歩自分と距離をあけた沙織には届かなかった。
 そうこうしているうちに、沙織はすっと、自らの右手と右肘の中程を包丁で切り裂いた。

「沙織、やめろっ!」

 血が一滴、二滴と、腕をつたって流れ落ちる。

「ふふっ」

 沙織はこちらの制止を聞かず、どんどん腕を切り裂いていく。その度に、傷口から真っ赤な血が溢れだす。
 そして、切り裂く場所は徐々に、徐々に手首の方へと近づいていった。
 腕はもう血だらけであり、沙織の足元には軽い血だまりが形成されている。

「やめろっ、頼むからもうやめてくれっ!」

 沙織は、まるで痛みなど感じていないようなやわらかい、それでいてどこか狂気がいりまじったような笑みを浮かべながら、口を開いた。

「兄さんは私のことが大切なのでしょう? だったら……」

 沙織の言わんとしている事は分かる。ただ、それでも俺は何も言えずにいた。
 この一線は、兄妹として踏み越えてはいけない一線なのだ。だが、そんな俺を焦らせるように、包丁の刃は手首へとあてられる。
 最早、限界だった。

「分かった!! 分かったから止めてくれ!」

 俺がそう叫ぶと、沙織は包丁の動きを一旦止めた。

「俺も、お前のことが好きだ。だから…………付き合ってくれ」

 絞り出すように放った、告白への返事。それを沙織は、満面の笑みで持って応えた。

「ええ、喜んで。私もずっと好きだった……愛しているわ、兄さん」

 沙織はそう言うと、包丁を傍らに置き、ベッドに座る俺の膝の上に、自身も座った。
 そして…………俺の唇を奪った。


 いつまでそうしていたのだろうか。辺りはまだ薄暗いままで、未だに夜が明けることはない。
 恍惚とした表情を浮かべていた沙織は、ふと思いついたように、ポケットからあるものを取り出した。
 血だらけの腕を気にすることなく、取り出したものを俺へと見せる。
 それは、知恵の輪。沙織はそれを、いとも簡単にはずしてみせた。
 そして、今度は完全に狂気で顔を歪ませて、こう言った。

「本当、簡単に抜けちゃった」

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