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黙して語れず

2010.06.19 23:09|短編小説
内容:ホラー


「そうか、お前も夜の砲台跡に……」
「ああ」

 ふと、そんな会話が聞こえてきて、読書中だった一条真一は本から顔を上げた。
 学校は今昼休み中であり、一条がいるクラスも昼休み特有の喧騒に包まれている。
 そんな中、一条の耳に届いた彼らの会話は、その喧騒に似つかわしくない暗さをはらんでいた。

「いつまでこんな状態が続くんだろうな……」

 暗い表情で一人が呟く。
 周りのクラスメイト達が明るく喋りあっているため、尚更彼らが浮いて見える。

(砲台跡っていえば、あそこしかないよな)

 この町にはちょっとした観光名所として、砲台跡が存在する。
 戦時中に使われていた所らしく、今はその跡だけが残っているだけであるが、一条も小さい頃から何回か行ったことのある場所だった。
 町の北にある小さい山の中腹辺りにその場所はあり、砲台が在った場所だけあって、町の景色を一望することができる。
 だが、そうすることの出来る範囲は限られている。
 砲台跡は周りを樹木で囲まれており、また、砲台跡自体広い場所ではないので、昼間でも薄暗い。
 ましてや夜など、どれぐらい暗くなるか等想像に難くなく、夜中に行こうなどとはまず考えもしないだろう。
 だからこそ、会話の内容とその暗い表情が気になった一条は、彼らに話しかけた。

「木村、さっき夜の砲台跡がどうとか話してたけど、一体何の話?」

 一条としては軽く話しかけたつもりだった。彼らとて知らない仲ではない。
 だが、話しかけられた彼らは驚いて一条を見た後、口を噤んで俯いた。
 その表情には焦りの色が浮かんでいるようにも見える。

「? どうかした?」

 そう話しかけても、喋ろうとすらしない。
 更には、顔面蒼白になっていく始末。聞かれては不味い話だったのなら、それとなく誤魔化したりするものだろう。
 だが、そうしようとすらしないのは何故なのだろうか。
 彼らに対し疑問を抱く中、一条は周りの喧騒が若干薄くなったことに気付いた。
 見渡せば、クラスメイトの数人がこちらを窺っている。

「皆も何か知っているのか?」

 そう問いかけてみたものの、反応は皆同じで、誰もが口を噤んで俯き、蒼白い顔色になっていく。
 中には自分と同じく事態に付いていけていない者もいて、自分と同じように口を噤んだ者達に話しかけているが、結果は同じようだった。
 そうこうしているうちに、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
 まるで呪縛が解けたかのように、皆は自分の机へ帰って行った。



「夜の砲台跡?」

 放課後、隣のクラスにいる幼馴染の闇堂朱莉(あんどうあかり)を帰りに誘った一条は、夜の砲台跡について彼女に聞いた。
 しかし、彼女も一条と同じで何も知らないようだった。

「ねえ、夜の砲台跡がどうかしたの?」

 疑問の表情を浮かべながら問いかけてくる彼女に、一条は昼休みの一件を話す。

「うーん、確かにそれは何かありそうだね」
「あれだけ大勢の人間がいて、一人も詳細を話そうとしないんだ。こうもあからさまに皆の統率が取れてるのは、むしろかなり不自然だよ。そこがずっと引っかかっててね……。だから、今夜当たりにでも砲台跡に行ってみようと思うんだ」
「そうなんだ。なるほどなるほど……え?」

 一拍置いた後、朱莉はあたふたと一条に詰め寄る。

「本当に夜中にあんな所に行くの!? 何があるか分からないし、絶対に危ないよ」
「そうかもしれないけど、このままじゃすっきりしないだろ。分からないことをそのままにしておくのは性分じゃないし」
「はぁ……」

 朱莉は盛大に溜息をつくと、呆れたと言わんばかりの表情で一条を見る。

「真くんって真正の知りたがりだよね。昔から気になる事とか分からない事があったら、誰かに話し聞いて回ったり、本読んだりして調べてたし……。ホントに何かあっても知らないよ? オバケとか出るかもしれないよ?」
「朱莉、お前ももう高校生なんだから、そこは〝オバケ〟じゃなくて〝幽霊〟とか言ってくれよ」
「うっ……」

 結局、別れ際まで制止を呼び掛け続ける朱莉だったが、一条は聞く耳を持たなかった。



 時間は午後十時頃、一条は砲台跡の在る山の麓に来ていた。

「別に付いてこなくてもよかったんだぞ」
「そうは言っても、やっぱり心配だよ。真くんの身に何かあるかと思うと……」

 何だかんだで付いてきて、恐怖で顔を引き攣らせながら答える朱莉を見ながら、一条は思う。

(こんな所に来ることの方が、よっぽど危ないだろうに)

 そうしている間に、二人は砲台跡までの道中にある休憩場に辿り着いた。
 こちらは砲台跡と比べて広く、そこいらの公園程の広さがある。

「此処には街灯もあるし、あっちよりは見晴らしもいい。此処で待っててくれ」
「本当に行く気なの?」

 なおも心配する朱莉を前に、

「大丈夫だよ」

 そう言って、一条は歩みを進めた。



(とは言ったものの……)

 五分程歩いて目的地に到着した一条は、早くもこの場所に来たことを後悔し始めていた。

(予想はしてたけど、相当暗いな)

 この場所を覆う高い木々は、町の灯りどころか星の光さえ遮っている。
 更に、徒でさえそう広くない場所だというのに、風に揺れてざわめく草木がこちらを圧迫してくるようにさえ感じてしまう。

(兎にも角にも、進んでみるしかないか)

 懐中電灯を片手に、一条は砲台跡の内部に入る。
 砲台跡には直径八メートルの井戸のような建造物があり、深さ一メートル程のそこを降りれば、内部へと続く入口がある。

 その入口へ一条が足を踏み入れた時だった。
 そこが内と外とを隔てる境界線だったのか、内部の雰囲気が一転した。部屋の中が赤く染まり、異様な熱気が一条を包み込む。

(何だここは……。日のあるうちに来たときとじゃ、まるで別空間じゃないか)

 そして、一条は更にありえないモノを見つけた。
 それは、壁から生えた……腕。
 しかも、それは壁だけでなく、地面や天井からも続々と生え出していた。

(やばい、このまま此処に居るのは――)

 そう思い、後ずさった一条を、

(なっ?!)

 しかし、逃がさないとばかりに、地面から生えた手が足首を掴む。

「あーあ、だから行かない方がいいって言ったのに」

 首だけを振り向かせ声のした方向を向くと、そこにはいつの間に来ていたのか、入口に朱莉の姿があった。
 だが、妖艶な雰囲気を纏う彼女は、一条の知っている朱莉ではなかった。

「あ、朱莉?」
「でも、せっかく此処まで来たんだもの、お話ぐらいなら聞かせてあげるわ」

 朱莉は微笑みながらそう告げ、語り始めた。

「此処には元々どんな人達が住んでいたか知ってる?」
「いや……」
「部落差別で住む場所……町を追われた人達が暮らしていた集落。それが此処」
「そんな話聞いたこと――」
「知らなくても無理はないわ。また住む場所を追われないようにって、こんな狭い場所で細々と暮らしていたんだもの。まあ、結局は安定した生活を送ることが出来ないで、全員が此処で一生を終えたんだけどね。そんな場所に、何も知らない人達は良い場所があったと、砲台なんてものを建てたの。それは、彼らにとってあまりにも浮かばれない事で、怨嗟の念を呼び起こすには十分な出来事だったわ。知ってる? 此処の砲台が実際に使用されたのは、たったの一度きり。此処を使った兵隊さん達は全員が死んだの」

 一条にとって、それは衝撃的な話だった。
 自分が住んでいる町、身近な所でそんな事があったなんて、話で聞いてもいなければ考えたこともなかった事だ。

「話は分かった。でも、何で朱莉はその事を知っているんだ。何で此処にいる」
「私は彼らの縁者だから、彼らを見守らないといけないの。彼らは自分を追いやった者達を恨んでいるわ。だけど、安寧を求めてもいるのよ。恨みつらみが大きくなる夜には、この場所を訪れてほしくないと思っている。だからこそ、貴方にはこの事を口外してほしくないのだけれど……どうかしら?」

 足首を掴む手が、どんどんその強さを増していく。
 一条に残された道は、最早一つ。

「……分かった、口外しない。約束する」
「そう、良かった」

 だが、刹那、後方から伸びてきた手が一条の口を塞ぎ、更に何本もの手が一条の顔を覆っていった。

(息が――)

 そして、何も抵抗できぬままに、一条の意識は闇の中へと落ちて行った。



 目を覚ますと、最初に目に入ってきたのは満天の星空。気がつけば、一条は休憩場のベンチに寝かされていた。
 そして、隣には朱莉の姿。

「もう、やっと起きたんだ。もう日付変わってるよ、早く帰ろ」

 既に朱莉はいつもの朱莉だった。その姿からは、先程の様子の片鱗を窺い知ることは出来ない。

「待ってくれ、さっきの砲台跡の――」
「砲台跡がどうかしたの?」
「!!!」

 まるで見えない手で口が塞がれたかの如く、一条は喋る事が出来なかった。
 砲台跡での出来事が、脳内でフラッシュバックする。

「どうしたの?」

 朱莉は笑顔で問いかける。

「……いや、何でもない」
「そう。じゃあ帰ろうよ」

 そう言って、朱莉は一条に手を差し伸べた。



 それから一カ月の時が過ぎた。
 夜の砲台跡について、一条の耳にはあれから何も情報は入ってきていない。
 だが、何も終わってはいないのは明白だった。

(あの夜の一件以降、砲台跡の話を振られる度に、見えない手で口を塞がれるような感覚を受ける。おかげで、嫌でもあの夜の事を思い出す……)

 この一ヶ月間に、一条はそれを何回も体験した。

(だから確信できる。それが続いている今、恐らく彼らを縛る想いは晴れていない。そして、今ならあの時の皆の気持ちが分かるよ。皆は敢えて喋らなかった訳じゃない、夜の砲台跡について、何も喋ることが出来なかったんだ。皆してああなっていたのも頷ける)

 一条が思い浮かべたのは、俯いて何も喋ろうとしなかったクラスメイト達の姿と、どんどん蒼白くなっていくその顔色。
 そして、次に浮かんだのは、朱莉の顔。あの夜に見た朱莉を、一条はあれきり見ていない。
 朱莉は今でも一条の知っている朱莉のままであった。

(朱莉は、〝彼らは安寧を求めている〟と言った。でも、それを手に入れられる日は来るんだろうか。
砲台跡を訪れる人間は、恐らく尽きることがない。この大きな流れ……連鎖も、多分終わることはない)

『いつまでこんな状態が続くんだろうな……』

 一カ月前のクラスメイトの言葉が、一条の心に深くのしかかった。



それは、限りなく終わることのない、無限の連鎖。

「なあ、一条。お前夜の砲台跡に行ったんだろ。その時の話聞かせてくれよ」

そして、新たな歯車が、ここにまた一つ。

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