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愛は執着へ

2010.06.14 20:33|短編小説
内容:ヤンデレホラー


「またか……」

 ホームが終わり、放課後特有の喧騒につつまれる教室の中、俺は携帯電話のディスプレイを見ながら溜息をついた。
 そこには『新着メール20件』と写し出されている。差出人が一緒であることを確認し、そのメールを全部消去する。
 どうせどんな内容なのかは分かり切っている。

 高校に入学してから一カ月が過ぎた。
 俺はこの一ヶ月間、誰とも知らない奴からストーカー行為を受け続けている。
 毎日送られてくる100通以上のメール。そこには俺の行動の逐一が記されている。

『数学の教科書忘れてきちゃったんだ。駄目だよ、忘れ物なんて』
『英語の小テスト満点なんだ。すごいね』
『最近よく木ノ下さんとお喋りしてるね。もしかして好きなの? 駄目だよ、私がいるのに』

 とまあ、こんな感じである。そして、家に帰れば今度は数十件の無言電話。
 何回も掛けてくるくせに、こちらから何を言っても返事が返ってくることはない。
 更に最近では、夜道で俺の後をつけてくるようにもなった。
 部活をやるようになって、日が落ちてからの帰宅が多くなったのだが、毎回誰かが後ろをつけてくる。
 捕まえようとしても無駄だ。まるで本当に誰も居なかったかのように、奴は姿を見せない。
 だというのに、影だけはちらつかせてくる。
 未だに実害は被っていない(精神的な被害は中々のものだが)から、耐えられているようなものだ。

 今のところストーカー犯について分かっていることは二つ。
 一つ目は女であるということ。それはメールの文面から容易に読み取れた。
 ついでに、気持ちの悪い好意を寄せられているということに関しても。
 まあ、文面なんていくらでも偽ることができるから、絶対に女だと言いきることはできないが。
 かと言って、男だと考えるのは非常に背筋が寒くなるので、これは考慮しないでおこう。
 そして二つ目は、彼女が自称〝江崎綾〟であるということだ。
 あくまで自称である。
 メールには必ずこの名前が書いてあるが、彼女が江崎綾でないことは分かり切っていた。
 なぜなら、綾は俺と同じ高校への入学を控えた春休みに、交通事故で亡くなっているからだ。



 江崎綾は幼少の頃からの幼馴染だ。
 家が近所ということもあり、幼稚園に通っている頃からずっと一緒だった。
 綾は俺に対しては多少世話好き過ぎるきらいがあったが、基本的に誰にでも優しく、面倒見の良いやつだった。
 お菓子作りが得意で、よく作っていたのはマドレーヌだったか。
 何回も食わされた記憶がある。
 そんな綾とまた一緒に学校生活を送れると思っていた矢先に、事故は起きてしまった。
 綾のことを考えると、まず最初に浮かんでくるのは、高校での合格発表。
 あの時の綾の笑顔は、一生忘れられないものになってしまった。
 だからこそ、俺は綾の名を語ったストーカー犯のことが許せなかった。
 どこで綾の名を知ったのかは分からないが、必ず自らの手でこの件は片づける。
 そう誓った。
 この一ヶ月間、高校の教師や警察、家族はおろか友人にさえストーカーの件を相談しなかったのはこのためだ。
だが、時間は無常にも過ぎていく。
 結局この一カ月は新たなストーカー被害が増えただけで、ストーカー犯についての核心にいたるような情報は何も掴めなかった。
 それもそうだろう。あくまで自分は一介の高校生であって、警察でも探偵でもないのだ。
 そんなわけで、何の手がかりも掴めずに既にこちらが辟易しかけていたそんな折、あちらも焦れていたのか、ようやく俺の前に姿を現した。



 午後八時三十分。
 既に空が暗くなった頃、部活が終わり家への帰宅の道を急いでいた俺は、ある違和感に気がついた。

(おかしい……、後をつけてくる奴がいない)

 いつもは感じる気配や視線が今日はない。
 暗くなってから帰宅するようになって今まで一度も欠かさずに続いてきたことだけに、安堵感よりもむしろ何かあるんじゃないかという疑念の方が先をついて浮かんでくる。

(考え過ぎかな。奴だって予定のある日ぐらいあるだろうし)

 それこそ、休みでもないのに何も予定のない奴の方が今はおかしいのだ。
 そんなどうでもいいようなことを考えていたときだった。一メートル前方にあった電柱の後ろから、人が現れた。

「こんばんは、和人君」

 街灯の光がスポットライトのように作用し、そこに現れた彼女の姿を際立たせる。

「天宮……、香織?」

 予想外の人物の登場に驚きを隠せない。
 彼女の名は天宮香織。俺のクラスメイトだ。
 天宮とはまだ一度も話したことがないが、覚えている限りで彼女のことを説明すれば、大人しく、真面目な奴、だろうか。
 あまり喋る方ではなく、率先して何かを行おうとする奴でもないので、クラス内でも目立つ存在ではなかった。
 それ故、俺も天宮に関しては特に詳しく知らないのだが、まさかストーカー行為にご執心だったとは……。
 正直、幻滅どころの話じゃない。

「あんただったのか、俺をずっとストーカーし続けていたのは」

 睨みを効かせ、語調を強めて問いかける。
 ここで舐められてはいけない。

「ふふ、相変わらず怒った顔も素敵だね」

 もう既に舐められているようだった。
 とはいえ、この返答は肯定以外の何物でもないのも確か。

「なんだってこんなことをやるんだ。ストーカーは立派な犯罪行為だぞ」
「好きだからだよ、貴方のことが」
「うっ……」

 あまりにも真っ直ぐで淀みのない言葉に、思わず言葉を失ってしまう。
 それと同時に、顔に相当な熱が集まってきているのを感じる。
 こんな時だというのに、自分はなんと節操のない奴なんだろう。

「私はこれが最善の行いだと思ったんだけどね。貴方を見ているだけで私は満足……ううん、昇天さえ出来ると思えたの」

 一気に顔の熱が引いていく。
 昇天? 彼女の発言は、俺の予想の遥か斜め上をいっていた。

「でもやっぱり駄目ね、見ているだけなんて。そんなんじゃとても満足できないよ。一緒に居ないと……。もっと近くで、誰にも邪魔されずに、ずっと」

 彼女の愛は、正に異常。
 ストーカーなんてしている時点で相当おかしい奴だろうと思っていたが、本当にどこか狂っているとしか思えない。

「悪いけどお前とは付き合えないよ。そんな歪んだ愛なんて、俺は受け止めることが出来ない」
「それは誰に言っているの? 天宮香織? それとも私?」
「はぁ?」

 ついに頭が狂ってしまったのだろうか。彼女はまるで、自分が天宮香織ではないというような言い方をする。

「あんたに言ってるんだ、天宮香織」
「そう……。散々メールに名前を載せていたのに、信じてなかったんだ」
「当たり前だろ、お前が綾なわけ――」
「確かにこの体は天宮香織のもの。でも意識は私のものだよ。取り憑いたの、この体に」
「な、何を言って――」
「まだ分からないの? 和ちゃん
「なっ!?」

 和ちゃん。
 それは、綾が幼い頃から俺に対して使っていた呼称。
 にわかには信じがたい事態。だが、天宮とは小学校も中学校も違うのだ。
 彼女がこの呼称を知る訳がない。

「綾……なのか?」
「そうだよ、和ちゃん。本当はメールだけじゃなくて、電話でお話もしたかったんだけど、声は天宮香織のものだしね。仕方なく我慢してたんだ」

 そう言って彼女は微笑む。
 しかし、その表情はすぐに曇ったものに変わる。

「あんな事故で死んでしまって、和ちゃんへの想いも成就してないのに、死にきれるわけないよ……」

(俺への想いが未練となって、綾にここまでさせたってのか……)

「私には和ちゃんが居ないと駄目なの……。だから……ね?」

 綾の表情が、酷く歪んだ笑みへと変わっていく。刹那、綾は俺との距離を一気に詰めて、両手で俺の首を掴んできた。

「だから一緒に逝こう、和ちゃん」
「ぐっ、がぁ……」

 必死に引き剥がそうとするが、とても女とは思えないような尋常じゃない力の前に、精々少しの間息を吸う時間を稼ぐだけでこちらは精一杯だった。これでは息もそうもたないだろう。
 綾は恍惚とした表情を浮かべながら俺の首を絞める手に力を入れていく。
 そこには最早、生前の彼女の面影など残されていなかった。

(未練ってのはこうも性格を歪めてしまうもんなのか。綾は俺に対して尋常じゃない程の未練を抱えている。
だけど……)

 綾の腕を握って、必死に押し返す。 そして、ようやく喋れるだけの間を稼ぐことが出来た。

「綾、お前が死んで未練を抱えたのはお前だけじゃない」

 天宮の……いや、綾の目を見て必死に呼びかける。

「俺だってお前の死に未練を持った。悲しかったさ。だけど、それを乗り越えてお前の分まで生きてやろうって決めたんだ。そう覚悟を決めて高校への入学に臨んだ」

 綾からの返答はない。それでも俺は必死に訴えた。

「だから、頼むから、そんな俺の覚悟まで無かったことにはしないでくれ」
「和……ちゃん?」

 首を絞める手から力が抜けていく。
 綾は頭を両手で押さえながら、悲しそうな顔で俺に微笑みかけてきた。

「ごめんね」

 そして、そう言葉を残し、地面に倒れた。



 その後の顛末を語ろう。
 あの後目を覚ました時には、それは既に綾ではなく、天宮香織本人だった。
 話を聞いたところ、天宮は約一カ月ぐらい前から今日までの記憶が穴だらけで、あやふやになっているようだ。
 やはり、綾が天宮の体に取り憑いていたのは間違いではない。
 果たして、綾は成仏できたのだろうか。
 綾の未練が晴れたのかどうか分からないが、あの日を境に自分へのストーカー行為はぱったりと途絶えていた。

(大丈夫、自分の思いは伝えたんだ。綾ならきっと分かってくれる筈……)

 綾の事を信じつつも、しかし、心のどこかに漠然とした不安を抱いたまま、俺は家に帰り着いて玄関のドアを開いた。

「ただいま」
「あ、おかえりー」

父は昨日から出張、母はその隙を見て友人と旅行に行っているため、今家には自分と姉しかいない。

「もう夕飯できてるよー」
「ああ、ありが――」

 とう。
 そう言いかけた口は、しかし、食卓を見てしまったことにより、その続きを紡ぐことが出来なくなった。
 食卓に置かれていたのは大量のマドレーヌ。
 綾の事がなければ「夕飯にこのメニューはどうなんだよ」とでもつっこんでいたことだろう。
 だが、生憎俺の脳はそう楽観的な作りになっているわけではないようだ。そう、マドレーヌは綾の得意料理だ……。
 困惑する思考の中、姉の声が頭に響いてくる。

「どうしたの? 和ちゃん

 どうやら綾の執着は、まだ終わりそうにないようだ。

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